こんにちは。
私が長年修行してきたのは、武道(剣道、等)で、特に剣道が専門です。
武士の剣術や戦闘が、実際にはどのようなものであったのかを常に頭に置いて、稽古を続けてきましたので、その立場で刀や武士の戦闘について、今日は書いてみたいと思います。
ここで、「戦闘」と書きましたが、いわゆる「切り合い」のことです。
新選組の近藤勇が、故郷の親族にあてた手紙の中に、池田屋事件の時の自分の活躍を書いたものがあるのですが、その中で「戦闘」と書いていました。
「戦闘」というと、現代の軍隊の戦いをイメージしますが、幕末の侍も、刀の戦いを「戦闘」と呼んでいたんですね。
最近は、「刀剣女子」がクローズアップされており、若い女性の皆さんにも日本刀の人気が広がっています。
そのきっかけとなったのは『刀剣乱舞』の人気です。
『刀剣乱舞』はオンラインゲームやテレビアニメ、ミュージカル等で大人気です。
こうしたメディアの力は本当に大きいですね。
さて、時代劇で、面白く、かっこイイのは何といっても「切り合い」、「チャンバラ」です。
そう、殺陣(たて)です。
最近は外国人にも「忍者」が人気で、忍者道場なるものもあって、殺陣を教えています。
彼らにとっても、チャンチャンバラバラと立ち会うのはカッコイイようです。
ちなみに、昭和の子供たちはみんな「チャンバラごっこ」をしたものです。
目次
さて、リアルな戦闘について、少しふれます。
決して、殺陣にケチをつけるわけではありませんが、実際の戦闘はあのようなものではありません。
殺陣師さんの動きも、いわば軽業師のような身のこなしで、かっこいいのですが、剣道家(剣術家)からみると、本物の身のこなしではありません。
決定的にリアル戦闘と違うのは、日本刀の扱いです。
殺陣では片手に刀を持って、手首をくねらせ丁々発止とやっていますが、本物の刀をあのようには扱えません。
真剣(打ち刀)の重さは、普通、1.2kgから1.5kgくらいはありますので、片手で殺陣のようには扱えないのです。
殺陣で刀をクルクルと回したりして扱えるのは、竹製か軽い金属で作ってあるはずです。
片手と言えば、二天一流の宮本武蔵がいますが、武蔵は人並み以上の膂力を持っていたと考えられるので、片手で扱うことができたのでしょう。普通の人には無理です。
※打ち刀というのは、江戸時代以降、二本差しの武士が腰に差していた大小の刀の内、大刀の方で、私たちが普通にイメージする日本刀です。戦国時代までは馬上で刀を使いましたので、太刀(たち)と呼んでおり、長くてその分、身幅も大きく重いです。腰に提げる時も、刃を下にした提げ方です。
さて、こんな理由で、大刀は基本的には両手で持ちます。
現代剣道でも二刀流はいますが、真剣を使った実戦に遭遇した時、果たして両手で刀を使うことができるかどうか。
武士は刀を叩き落されたらもう、最後ですので、片手で大刀を持つのはたいへん勇気のいることです。
例えば、示現流の使い手が大刀をトンボに構えて(トンボの構えというのは八相の構えに近いと思います)、袈裟懸けに切り込んできたのを迂闊に片手で受けようものなら、受けた刀ごと、袈裟に切り込まれること必定だと思います。
まあ、こんなわけで、刀をクルクルと使うことは、普通はないはずです。
次にリアル戦闘と全く違うのは、対峙する双方の間合いです。
殺陣では間合いが全然、実戦とは違います。
まあ、言ってみれば、殺陣は舞踊のようなものですので、切る側と切られる側が、きれいに舞って見せて、見る人がカッコイイと感動してくれたらいいわけです。(ごめんなさい。悪口ではありません)
ですので、どんな殺陣を見ても、緊迫感・リアリティがないのが、ちょっと残念です。
実際の刀の戦闘では、この「間合い」が勝敗を決します。
実際の果し合いでは、100%安全な間合いから、相手を切り倒すなどということは、不可能です。自分の刀が届く位置は相手の刀の届く間合いですから、どちらかが意を決して踏み込んで切り込めば、勝負は一瞬にしてつきます。
したがって、「切り合い」とは、切るか切られるか、ぎりぎりのところで命のやり取りをしているのです。
だからこそ、武士は命をあずける刀にこだわりを持ったんですね。