独立行政法人理化学研究所の研究員だった小保方晴子さんたちが、発表したSTAP細胞について。

 

この問題・騒動はその発表以来、ずっと私の頭の片隅に残っています。

というのも僕は子供たちに生物の発生について講義することも

あるので、この事件が頭から離れないのです。

【STAP細胞事件の経過】
以下は事件の経過をフジテレビの情報制作局「コンパス」が、
まとめたものです。

2014年04月19日 新・週刊フジテレビ批評で放送
社会・公共

STAP細胞を巡る一連の報道をどう見るか?

1月末に発表された『STAP細胞』は、世界的な発見として注目を集めました。
しかしテレビ報道を始め、日本のメディアではその科学的側面だけでなく、
別の側面に注目が集まり、さらに論文の不正が指摘されてからは、
研究者個人、所属機関などへの非難、困惑、期待が整理されないまま、
混乱の様相を呈しています。紆余曲折を重ねたメディアの報じ方への批判の声があがる一方で、
視聴者側のリテラシーを問題視する指摘もあり、
改めて専門性が高い分野、科学的な視点が必要な事象の報道の難しさを
浮き彫りにした形となっています。《これまでの経緯》

1月29 日、独立行政法人 理化学研究所は「体細胞の分化状態の記憶を
消去し初期化する原理を発見」と題したプレスリリースを発表しました。
山中教授による研究成果で有名となったiPS細胞よりも、短期間かつ
簡単に「万能細胞」が作成できることは画期的であり、国内外から、
称賛が集まりました。研究ユニットのリーダーは、独立行政法人理化学研究所に所属する
小保方晴子博士であり、30歳の女性が割烹着を着用して、カラフルな
研究室で大きな成果を挙げたことが注目され、
“理系女子(リケジョ)の星”として、世間の注目は、研究内容よりも
小保方氏自身へと移りました。しかし、

2月17日、理化学研究所は「STAP論文」に不自然な点があるとの
指摘が外部から寄せられたこと受けて、調査を開始したと発表し、

翌2月18日には、
論文を掲載したイギリスの科学誌『ネイチャー』も論文の画像に不自然な点があったため
調査を開始したと発表しました。調査が開始された前後から、小保方氏の論文への批判が高まり、
週刊誌などを中心に小保方氏やその周辺に対するバッシング報道が過熱しました。

そして3月10日、論文の共著者である若山照彦 山梨大学教授は、山梨大学のウェブサイトに、
「本論文に関して様々な疑問点が指摘されている今日、私はSTAP細胞について
科学的真実を知りたいと考えております。」とコメントを掲載。

同時に、若山教授は小保方氏をはじめ他の著者に論文の撤回を呼びかけたと報じられました。

4月1日、理化学研究所は、調査の最終報告書を公表する記者会見を行い、この中で、論文に
「捏造」「改竄」があったと判断したとし、研究不正行為は小保方さん1人であるという
認識を示しました。

4月7日、理化学研究所は、STAP細胞の存在について検証を行う実験計画を発表。
小保方氏はこの実験に参加しないことも明らかにし、最終報告を来年3月に行うと発表しました。

4月8日、小保方氏は理化学研究所の最終報告書に対し不服申し立てを行い、

さらに翌4月9日、大阪で記者会見を行い、論文にミスがあったことを認め謝罪する一方で、

「STAP細胞は200回以上作製に成功」したと述べ、証拠は示さないものの

論文を撤回しない考えを改めて示しました。
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高校生だったとき、生物の発生過程の話は私にとって

とても興味深いものでした。

それは、発生の過程について論じた前成説と後成説に係るモザイク卵と

調整卵の実験の話です。

 

この興味深い動物の発生・細胞分化の問題について、

ある日、突然、理化学研究所の小保方晴子さんたちが、

成人の体細胞から、受精卵と同じ性質の細胞を

簡単な方法で作ったと発表したのです。

 

受精卵と同じ性質というのは、その細胞が成長する過程で、神経細胞にでも

筋肉細胞にでも、何にでもなることのできる細胞という意味です。

しかも、その受精卵と同じ性質の細胞(もうここで初期化された細胞と呼んでおこう)

の作成過程がショッキングでした。

なんと、もう分化し終わった体細胞を

酸性の液体につけたり、細いガラス管を通すと

そのストレスによって、初期化されてしまうというのです。

 

本当に驚きました。これが本当だとすれば画期的なことです。

例えば、事故による脊椎損傷で、中枢神経が切れてしまい、

下半身を動かすことができなくなったとします。

 

神経細胞は細胞分裂で増えることはありませんので、

現在の医学では、完全に元通りにすることはできません。

しかし、STAP細胞が自分の体細胞から作れるとしたら、

そのSTAP細胞は初期化状態ですので、その細胞から神経細胞を作り

自分の切れた中枢神経に移植すれば神経損傷を補うことができます。

 

ここで、『スタップ細胞』をもっと詳しく知恵蔵で勉強しましょう。

知恵蔵2015の解説
STAP細胞

<こちらは2014年3月時点に執筆したもので、事実関係が異なる可能性があります (14年3月20日時点)。>

刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)細胞の略称。Nature 2014年1月30日号に掲載された小保方晴子 (理化学研究所発生・再生科学総合研究センター細胞リプログラミング研究ユニットリーダー)らによる2編の論文によって発表された。哺乳類(ほにゅうるい)の体細胞に外部から刺激を与えるだけで、未分化で多能性を有するSTAP細胞に変化するというもの。これまで発見されたES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)といった多能性細胞と比較して作製法が格段に容易であり、またこれらの細胞にはない胎盤への分化能をも有することで、今後、再生医療等への貢献の可能性が大きいと期待された。しかし、論文の発表直後から、追試実験が成功しないことや論文の記載に多くの不備があることが指摘され、3月現在、理化学研究所によって論文に研究不正があったかどうかの内部調査が進行している。STAP細胞の存在もまだ証明されていない。
論文は三つの部分から成り立つ。まずSTAP細胞の作製法についてで、論文によれば、生後間もないマウスの脾臓(ひぞう)から取り出したT細胞(リンパ球の一種)を、弱酸性の溶液に約30分浸した後に培養すると、生き残った細胞の一部が直径約5マイクロメートルほどに小さくなり、1週間で多能性を持つ未分化細胞に変化する。これがSTAP細胞と命名された。T細胞が使われたのは、その核内では分化の過程で遺伝子の再編成が起こるため、遺伝子を調べることでT細胞由来の細胞であるとの指標になるからだ。元々脾臓の中にある未分化細胞が選別されたのではないと論文は述べている。この細胞をマウスの皮下に移植すると、皮膚や筋肉の組織ができたことから、多能性があるとされているが、証拠となる写真は小保方の学位論文に使われた別の研究によるものの転用と判明した。T細胞由来であることを示す遺伝子の解析データにも改ざんが認められた。
二つ目の部分は、細胞の多能性を証明するため、世界で初めて体細胞クローンマウスを作製したことで知られ、当時は理化学研究所発生・再生科学総合研究センターに所属していた若山照彦・山梨大学教授が実験を行った。蛍光色素で標識したSTAP細胞をマウスの受精卵に導入し、子宮内に戻すと、生まれてきたキメラマウスには蛍光を発する細胞が全身の組織で見いだされた。三つ目は、STAP細胞から多能性と増殖能力を持つ「STAP幹細胞」を作製する方法に関してで、再生医療への応用には必須の研究である。
しかし、論文の共著者らが行った二つ目、三つ目の研究に小保方が提供した細胞には、T細胞由来であることを示す遺伝子再編の証拠がなく、論文の初めに示されたSTAP細胞とは異なる。このことは、理化学研究所が3月5日に公表したSTAP細胞の作製に関する実験手技解説によって、初めて明らかになった。若山は「信じていた研究のデータに重大な問題が見つかり、STAP細胞が本当に出来たのかどうか確信がなくなった」とし、他の共著者らに論文の取り下げを呼びかけている。
(葛西奈津子  フリーランスライター / 2014年)
日経バイオテク/公式サイト

このように、STAP細胞は初期化されている細胞ですから、

培養する過程で、神経や筋肉細胞になっていくことができるのです。

これを分化といいます。

この世に生まれてきたときから、私たちの体の細胞は、筋肉細胞は筋肉としての機能、

神経細胞は神経としての機能、表皮細胞は表皮としての機能だけしか持ちません。

そして、いったん筋肉細胞になると決して神経細胞に変化したりはしないのです。

しかも、STAP細胞は自分の細胞から作りますので、移植しても

拒否反応が起こりません。

一瞬ですが、多くの人々が希望を持ったに違いありません。

 

このように私たちの体は様々な種類の細胞から作られていますが

もとはたった一つの細胞(受精卵)だったわけです。

たった1つの細胞だった受精卵は細胞分裂をして細胞の数が増えていく過程で

各種の細胞に変化していきます。

いったい、いつから機能の違う神経細胞や筋肉細胞に変化していくのでしょうか。

このことを研究する過程で、モザイク卵と調整卵の話がでてきます。

胚(受精卵が細胞分裂をして細胞数を増やしたもの)の様々な部分が

どのように発生してゆくのか、いつ各細胞の運命(どんな組織になるか)が決まるのかを

考えたときに、その運命が比較的早く決まる卵をモザイク卵といいいます。

それに対して、胚の各細胞の運命が決まるのが比較的遅い卵を

調節卵といいます。

モザイク卵の代表例はクシクラゲ(有櫛動物)の卵です。

クシクラゲは正常に発生した場合、クシ板と呼ばれる体構造を8列持つことになります。

しかし、2細胞期で胚を構成する細胞を引き離すと、ちょうど半分の4列のクシ板を

持つクシクラゲが2個体発生してくるし、4細胞期で引き離すと、2列のクシ板を

持つクシクラゲが4個体発生してきます。

つまり、最初の受精卵はクシ板を8列、2細胞期の各々の割球はクシ板を4列、

4細胞期の各々の割球はクシ板を2列作るように、運命が決まっているのです。

クシクラゲに対し、われわれヒトを含めたほとんどの動物は調節卵です。(イモリ、ウニなど)。

そのため、例えば何らかの理由で、ヒトの2細胞期に割球がバラバラになると、

形も機能ももちろん正常な、一卵性双生児が生まれてくることになります。

また、ウニの4細胞期にある胚をバラバラにすると、小さいながら完全な

プルテウス幼生が四個体生じます。(ウニの幼生をプルテウス幼生といいます)

しかし、二分する時期を8細胞期に変えると、動物極側の4細胞塊からは、

永久胞胚(胞胚から先の過程に進めない)が生じ、植物極側の4細胞塊からは

不完全な胚が生じます。

つまり、8細胞期に分割すると、発生は正常に進行しなくなります。

このことは、ウニの胚(受精卵が細胞分裂をして細胞数を増やしたもの)は、

4細胞期から8細胞期へと細胞の数が2倍になる過程で

調整卵(調節卵)からモザイク卵に変化した、ということになるのです。

また同じ8細胞期でも、赤道面ではなく、経度に沿って(つまり縦に)二分すると、

それぞれが小さいながら完全なプルテウス幼生になることがわかっています。

このことから、動物極側の割球と植物極側の割球には性質の違いがあって、

発生が正常に進むには、その両者が必要であることが分かります。

(丸い細胞の両極を地球の北極・南極のように、動物極、植物極と呼んでいます)

長くなりましたが、このように完璧なモザイク卵になってしまった私たち成体の

細胞(機能が限定されてしまった細胞)を酸に浸すことで、もとの受精卵状態にした

というのですから、本当に世界を驚かす発表だったのです。

では、小保方晴子さんたちが発表した研究結果の真偽はどうだったのでしょうか。→続く

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